アイルランドへの旅/西田太郎

2024年の鼓童のヨーロッパツアー。ロンドン公演からの流れで船橋裕一郎のワークショップが実現することとなり、2人で北アイルランドを訪れました。

 ロンドン・ヒースロー空港から約1時間30分のフライトでアイルランド島へ。海岸沿いを飛ぶ飛行機の窓から見下ろすと、霧雨の合間からどこまでも続く緑の丘が現れます。訪ねるのは、北アイルランド第2の都市デリー/ロンドンデリーのフィオナさん(Fiona Umetsuさん)。400年以上もの間、宗教的、政治的、経済的に分断され、今も根深い対立が続いている北アイルランドで、太鼓や盆踊り、折り紙など日本の文化を通じて相互が気軽に交流できる環境作りを続けておられます。

彼女が主宰しているObon on the Foyle Festival Groupでは、毎年「フォイル・オボン Foyle Obon」という日本の「お盆」にちなんだ日本文化のイベントを開催。ちなみにこの町の名前(デリー/ロンドンデリー)は、政治的、宗教的立場によって異なる呼び方となるため、中立の立場を表明するために街を流れるフォイル川をその名称にしているとのことです。

Foyle Obon ウェブサイトより

太鼓の活動では、大人のメンバーによるグループ(IBUKI TAIKO)や、プロテスタント系とカトリック系の小学校の子どもたち両方のための太鼓のクラス(YUJO TAIKO)、10代のLGBTQの若者による太鼓グループ(IRODORI TAIKO)のほか、ケアラー(介護従事者)やメンタルヘルスに問題を抱えた方々のためのクラスを毎週開催されているとのこと。純粋に演奏を楽しむだけでなく、現代社会のさまざまな局面で太鼓の力が役に立っていることを教えていただきました。

 


スタジオに到着し、まずは太鼓を拝見。長くいい音で叩けるよう、日常の手入れについて船橋からアドバイスをさせていただきました。

 


ワークショップでは、基本の打ち方のクリニックに始まり、初挑戦だという「担ぎ桶」のワークショップと、鼓童提供楽曲「うねり」の締太鼓と長胴太鼓のパートをレッスン。担ぐことで打面が動くため、普段の台に載せた太鼓との違いに始めは戸惑う様子もありましたが、皆さんすぐに慣れて楽しそうに叩き始めます。さすが若い人は飲み込みが早いですね。

 


フィオナさんと私は去年「鼓童 太鼓の学校」を通じて出会いました。元々は1996年に英会話講師として初来日し、日本の太鼓の魅力に触れてこの活動を始められたとのこと。山形県出身のパートナーのKatsuさんと二人三脚で団体を運営されています。鼓童の舞台もお好きだそうで、チームの名前をよくよく見たら「IBUKI」も「IRODORI」も鼓童の曲のタイトルにありましたね。「現在はスタジオを間借りして太鼓の活動をしているけれど、いつかは自分たちの拠点を持ちたい」瞳を輝かせて力強くこれからの計画を語るお二人、早く夢が叶いますように。

 


街の中央を流れるフォイル川、その西岸にはカトリック系、東岸にはプロテスタント系の住民が多く住んでいます。この川に架けられた一番新しい橋は「ピース・ブリッジ」という名の歩行者専用の橋で、二つの地区を結び、人々が新たに出会い、一つとなることへの願いがこめられています。最後の夜、私も自分の足で渡りながらこの街の歴史と将来に想いを馳せてみました。

高いフェンスで隔てられた居住区や暴動の記念碑を目の当たりにしてもなお、この街の現状は日本から来た私たちには安易に語れぬ重さがあります。そんな中、よりよい未来のために活動を続けておられるフィオナさんや街の方々に改めて感服し、今回わずかながらお手伝いができたことを誇らしく思いました。

「鼓童 太鼓の学校」が始まって3年。試行錯誤の中ですが少しずつ太鼓の輪が広がっています。オンラインで鼓童の太鼓をお伝えするこの学校を通じて、世界の太鼓コミュニティの方々と手を携えれば、それぞれの場所で人々を結び社会を良くするお手伝いができるかもしれない。それも一つの「ワン・アース」への旅(ツアー)なのでしょう。

そんな光を感じたアイルランドへの旅でした。

Foyle Obon ウェブサイト: https://foyleobon.com